はじめに
最近、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)に関して、驚くほど多くの質問を受ける。特に、日本の投資家や創業者たちは、米国法の下でICOにどのようなリーガル・リスクがあるのかについて興味があるようだ。ICOについては、比較的新しいものであり、米国でも法律や規則・ガイダンスについては非常に限定的であることから、未だに曖昧な点も多い。しかし、一つはっきりと言えることは、ICOを行う会社は米国の証券法の下でコンプライアンスに注意する必要があるということだ。
例えばこのようなニュースがある:昨年12月に、アメリカ証券取引委員会委員会(SEC)が、サンフランシスコに拠点のある“Munchee”というスタートアップに対してICOの中止通告書を出した。Muncheeは証券を登録せずにICOを行ったのだが、SECは1933年証券法に基づいて、発行されたコインを”証券”であると判断したのだ。結果的に、MuncheeはすぐにICOを中止することになった。
米国法の下では、証券募集発行の登録が必要とされる
アメリカ証券法については過去のブログ投稿でも説明したが、米国でオファーもしくは売却される証券は、登録が免除される資格があるものを除き、全てSECに登録しなければならない。つまり、ICOでオファーされるコインであっても、(1)そのコインが1933年証券法の下で”証券”とされる場合、そして(2)当ICOが登録免除の資格を有しない場合には、SECに登録しなければならないのだ。
更に言えば、連邦の証券法に加えて、アメリカは州ごとに独自の証券法があるのだが、それについてはこの投稿では触れない。一般的に、ICOを行う会社が最も懸念しているのは連邦の法律である。
米国証券法の下では、仮想通貨のトークンは“証券”にあたるのか?
1933年証券法の”証券”の定義は非常に広範であり、あるコインが証券であるか否かについては、様々な要素を勘案してケースバイケースで決定される。米国の最高裁判所では、証券を次のように定義している:
これはつまり、ICOに関して言えば、コインを発行した会社などの第三者の努力によってその価格が上がる(もしくは別の形でその価値を上げる)ことが期待されるコインであれば、それは”証券”である可能性が高いということを意味する。そして、もしそのコインが証券であるならば、そのコイン・オファリングは登録しなければならない、もしくは登録免除の資格がなければならない。
事実、2017年12月にはSECの議長がステートメントを出しており、その中で彼は、弁護士や会計士、コンサルタントは、実際には証券に当たるトークンについて、多くの場合、証券には該当しないと間違ってカテゴライズしていると指摘している。議長は更に、2018年1月にも同様の注意勧告を出している。
スタートアップはICOをSECへ登録できるのか?
端的に言えば、一部のケースは”YES”である。2015年に施行された証券規則の改定によれば、$20 millionもしくは$50 million(額によって二つのオファリングタイプがある)までの資金調達をする会社は、証券募集の登録にかかる費用を抑えることができる。とは言え、これらの単純化された登録プロセスでさえ費用は高く、時間もかかる。登録にかかるコストは、容易に1000万円、2000万円、またはそれ以上にかかってしまうこともあるのだ。
そのため、米国の投資家向けにICOを行いたいスタートアップは一般的に、オファリングを登録免除になるような仕組みにする。企業が免除を受けることの出来る規制の一つは、Regulation Dである。過去のブログ投稿でも、Regulation Dに関する重要な規定について説明しているので参考にしてほしい。Regulation Dの免除規定の下では、オファリングを登録せずに一部のリッチな投資家たちへオファリングを行うことが可能となるが、免除される為に必要な全ての要件を満たすことが非常に重要となる。その他の免除規定についても、ICOの内容・仕組みによっては可能になりうる。
海外でICOを行う場合はどうなるのか?
米国”以外”の企業が、米国”外”でICOを行った場合であっても、もしコインが米国内の投資家に対してマーケティングされる、もしくは売られる場合には、免除規定が適用されない限り、1933年証券法に基づく登録要件を満たさなければならない可能性がある。これはすなわち、理論的には、多くの会社がICOを行う場合に、1933年証券法に基づく登録をする必要が出てくるということを意味する。
ICOが登録されておらず、免除規定の要件も満たしていない場合はどうなるのか?
ICOを行う会社が1933年証券法の登録要件を満たしていない場合、重大なペナルティを課される可能性がある。まず投資家は、コインを会社に売り戻し投資額と利息分を得る権利があることに加えて、会社は民事上の罰金のみならず刑事上のペナルティを課される可能性もある。もちろん、SECには怪しいと思われる全てのICOを調査するリソースがある訳ではないが、1933年証券法に反する会社には、潜在的に多大なるリーガル・リスクが伴う。
ICOを行う会社はこのようなリーガルリスクにどのように対応できるのか?
ICOを行う米国の企業ならびに、米国の投資家向けにコインをマーケティングまたは売却する海外の企業は、そのオファリングが米国の証券法の下でコンプライアンスに即しているのかどうか注意深く考慮する必要がある。海外の企業が米国の投資家を除いてオファリングする場合には、米国の法律に基づくリスクは減るだろうが、米国の登録要件が必要となるマーケティングや売却行為を避けるように注意しなくてはならない。
モンローシェリダン・リード
外国法事務弁護士(米国ニューヨーク州)
慶應義塾大学 法科大学院 特任講師
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