英文契約書作成ポイント:M&Aコベナンツ

はじめに

コベナンツとは?

コベナンツは、一般的な契約条件の一つである。簡単に言うと、コベナンツとは、契約当事者が一定の行為を行う、もしくは行わない約束・義務のことである。英語では、一定の行為を行う約束・義務を”affirmative covenant”と呼び、行為を行わない約束・義務を”negative covenant”もしくは”restrictive covenant”と呼ぶ。

M&A取引のなかでは、コベナンツはどのように使われるのか?

大半のM&A取引において、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書、もしくは合併契約(ここでは、まとめて”譲渡契約”と呼ぶ)は、ディールがクローズする数週間・数ヶ月前に締結される。譲渡契約に署名をすると、買い手には対象会社を購入する義務が発生するが、実際はクロージングまで購入対価を払う必要がなく、対象会社の所有権や管理権は買い手に移行しない。

これはつまり、契約締結後からクロージングの前において、買い手は対象会社における金銭的な利害関係は有するものの、その金銭的利害関係に対してのコントロールはほぼ及ばないということである。この場合、買い手は対象会社の金銭的利害関係の価値を守りたいと考えるだろう。これが、M&Aにおいてコベナンツが活用される局面である。

典型的な譲渡契約では、買い手と売り手双方のコベナンツに関するセクションが含まれる。大半のディールでは、売り手は買い手よりもかなり細かいコベナンツに合意することになる。

アメリカ型の譲渡契約におけるコベナンツは、一般的に日本型の契約よりも非常に細かい。最も特徴的な違いは、アメリカ型の契約書では、買い手の受けるプロテクションを細かく設定することで、対象会社が特定の行為をとらないよう事前に制限をかけていることが多い点である(この対象会社の行為を制限するコベナンツのことを”conduct of business”と呼ぶ)。日本の契約でも似たようなコベナンツは見られるものの、アメリカ型の契約書で出てくるこの条件は大抵の場合、日本の契約書で見られる条件よりもずっと多くの詳細が含まれている。

この”conduct of business”コベナンツに加えて、アメリカ型の契約においては、買い手は一般的に、対象会社と売り手がディールのクロージングまで有効な、細かい”affirmative covenant”について合意することを要求する。

クロージング前か、クロージング後か?

アメリカ国内のプライベートディール(つまり、対象会社が非上場企業の場合)に関する、直近のABA Deal Points Study(アメリカ法曹協会の出版するM&A取引に関する研究報告) によると、クロージングが後になる(すなわち、契約締結日とクロージングが同日ではない)場合のほぼ全てのM&A取引において、対象会社は契約締結日とクロージングとの間に、少なくともいくつかのコベナンツに従う条件がついている。これらのコベナンツは、クロージングまで有効であることから、英語では”pre-closing covenants”と呼ばれる。

一方、クロージング後に有効となるコベナンツもある。例えば、クロージング後一年間は、対象会社社員の給料等(ベネフィット)を減らさないよう買い手が合意する場合がある。これらのコベナンツは、クロージング後に有効となることから、英語では、”post-closing covenants”と呼ばれる。

交渉されることの多いコベナンツ

コベナンツは、ビジネスや対象会社の評価に著しいインパクトを与える可能性があることから、買い手と売り手の弁護士は共に、M&A契約におけるコベナンツを注意深く読み、考慮する必要がある。下記は、アメリカ型のM&A取引においてよく交渉される、最も重要なコベナンツの一例である。

  • Conduct of business prior to closing (クロージング前の経営)
  • Access to information (情報共有義務)
  • “No shop” (競合買主を勧誘しない)/”No talk” (競合買収提案を交渉しない)
  • Government approvals and consents (政府の承認や許可)
  • Notice of certain events (ある特定のイベントの発生)
  • Non-competition and Non-solicitation (非競合と非勧誘)
  • Tax matters (税金関係)

Conduct of Business Prior to Closing (クロージング前の経営)

一般的に、譲渡契約を交渉中の弁護士はこのコベナンツに注意する必要がある。このコベナンツの基本的な考えは、対象会社が、業務を”通常通り”かつ”過去と同じように”行うことに合意するものである。買い手にとって、これは非常に重要なことだ。買い手は、対象会社を購入する契約に署名したはいいが、クロージングの直前に対象会社が突然、業務の重要な部分に変更を加えるようなことは、避けたいだろう。

買い手は大抵の場合、対象会社のどのような行為が禁止されるのかについて多くの詳細事項を入れようとするので、このコベナンツは複雑になりがちである。多くの場合、対象会社が買い手の事前の許可を得ずに行ってはならない行為について、買い手は具体的なリストをコベナンツに盛り込む。

例えば下記のような項目が禁止行為のリストに含まれる:

  • 定款やbylaws(付随定款)を変更すること
  • 株主への配当を交付すること
  • 新株の発行や、ローンの担保に株を差し入れること
  • 他の会社を買収すること(特定の規模を超えた場合)
  • 知的財産を含め、資産の大部分を売却・移管すること、資産をローンの担保にすること
  • 重要な契約を変更もしくは解約すること
  • 重要な契約を新たに締結すること
  • 新たなローンを受けたり、ローンを第三者に提供すること
  • 役員報酬を上げたり、役員へボーナスを支払うこと
  • 新しい役員を雇うこと
  • 多額の資本支出をすること
  • 会計や税政策について重要な変更を加えること
  • 新規ビジネスに参入すること
  • 破産を申請すること
  • 上記行為を行うための契約を結ぶこと

実際の譲渡契約では、これらの事項はより細かく記載されている。上記コベナンツについて全文の例を読みたい方は、Intel CorporationとMobileyeの株式譲渡契約Section 5.01をご覧頂きたい。

もっとも、禁止されている行為のうち多くが、例外規定を設けているのが一般的であり、対象会社が通常業務のためならば行動がとれるようになっている。また、買い手から許可を貰えば、こういった行為がとれるようになっている。このような条件もそうだが、買い手の目指すところは投資したものを守ることであり、対象会社の価値が上がると買い手が考えるのであれば、買い手は対象会社が上記のような行為をとることに賛成することもある。

禁止行為のリストに加えて、このコベナンツは、売り手と対象会社の” affirmative obligations”(行わなければならない行為)に関するリスト(例えば、クロージング前に対象会社の価値を維持するよう努める等)を含める場合もある。これはケースバイケースで交渉される。

禁止行為のリストを見て分かるように、このコベナンツは制限的な性質があり、クロージングまで対象会社のビジネスに大きな影響を与えることがある。従って、対象会社の経営者は、どのような行為が禁止されているのか、どのような制限に合意できるのか、をしっかり理解することが重要である。

Access to Information (情報共有義務)

契約締結からクロージングの間にもデューデリジェンスを継続して行う必要があるため、米国型の譲渡契約では、買い手は、売り手と対象会社がデューデリジェンスにおいて買い手に協力するようなコベナンツを要求することが一般的である。

弁護士や会計士が譲渡契約締結前にデューデリジェンスを行うことが出来た場合でも、締結からクロージングまでの間に起こったことについて、デューデリジェンスは行われる。当事者が、以前のデューデリジェンスについて、契約締結後に追加質問をすることも一般的である。従って、契約締結後についても売り手と対象会社の協力を、契約上で確保することが重要である。

同コベナンツは、対象会社のビジネスへきたす支障を最小限に抑えるための制限を含むこともよくある。例えば、対象会社のビジネスを邪魔しないよう、オンサイトでのデューデリジェンスや経営陣へのインタビューは、営業時間中のみに制限するといった条件に買い手が同意することがある。

No shop (競合買主を勧誘しない) / No talk(競合買主と交渉しない)

このコベナンツは、各ディールごとにケースバイケースで交渉されるが、一部のバージョンはアメリカでのプライベートディールでよく使われる。

“No shop”(競合買主を勧誘しない)条項というのは、売り手が他の潜在的な買主(競合買主)に対して、対象会社を買うよう勧誘や説得をしてはいけないという、売り手側の約束である。”No talk”(競合買主と交渉しない)条項というのは、対象会社の買収について他の潜在的な買主と交渉や議論をしたり、情報提供をしてはいけないという、売り手側の約束である。

もし売り手がNo shop条項やNo talk条項を無視し、他の買主と対象会社の売却について勧誘や交渉等をした場合、売り手は譲渡契約に違反することになる。

こういったタイプの制限は、デラウェア州裁判所では状況によって執行可能である(非常に多くのアメリカの会社はデラウェアで設立されているため、これらの条項が執行可能かについてレビューするときには、デラウェア州が最も重要な管轄となる)。但し、売り手の取締役たちは、対象会社をより有利な条件で売却できるよう最善を尽くすという信認義務(fiduciary duty)を持つという点も重要である。従って、売り手を代理する弁護士は、売り手の取締役たちが信認義務を果たすことが出来るような形でコベナンツを盛り込むよう、注意しなくてはならない。特にパブリック・ディール(すなわち、対象会社が上場企業の案件)では、このコベナンツに”fiduciary out”と呼ばれる例外が含まれている場合があり、取締役が他の潜在的な買い手からの有利なオファーへ対応することが許されている。

Government Approvals and Consents(政府の許可や承認)

このコベナンツはかなり細かく規定されることもあるが、基本的な考えは、取引を完了するために必要な政府の許可や承認を得るため、買い手と売り手はともに誠実に動くべきというものである。これには、政府の要求に素早く対応したり、政府に提供する情報や書類を譲渡契約の相手方が事前にレビューすることを許すこと、などが含まれる。

これは一般的なコベナンツであり、 独占禁止法に関する許可を、取引クローズ前に要する場合には特に重要である。 

Notice of Certain Events (ある特定のイベントの発生)

売り手は一般的に、契約締結後クロージング前に一定のイベントが起こった場合、買い手に知らせる義務をもつ。例えば、クロージング前に対象会社に重大な悪影響を及ぼす事由(Material Adverse Change)が発生した場合、このコベナンツでは、売り手が買い手に知らせることを要求している。

その他、売り手が買い手に知らせる義務が発生することの多い二つのイベントは:

  • 合併取引に関して、政府から売り手もしくは対象会社へ連絡がきた場合
  • 第三者より、合併取引を進めるに当たって彼らの承諾が必要であるとの主張があった場合

Non-competition and Non-solicitation(非競合と非勧誘)

多くのM&A取引において、買い手は、ディールがクローズした後に売り手が対象会社と競合しないという合意を取り付けることを強く望みます。更に、買い手は売り手に対して下記に合意するよう要求する場合があります:

  • 対象会社のサービスと同様のサービスに関して、対象会社の顧客を勧誘しないこと
  • ディールがクローズした後に、対象会社の社員を雇わないこと

概して、これらの条件に対する買い手の要求は容易に理解できるだろう。普通に考えて、ディールのクローズ直後に売り手が対象会社と競合するようなことになれば、買い手は会社を買いたいとは思わないだろう。

日本と同様、アメリカでも競合禁止契約は常に執行可能とはならない。競合阻止条項の執行可能性は州法により、州ごとに異なる。一般的には、地理的な制限、期間的な制限、ビジネス的な制限などが、競合阻止条項の執行可能性を決定する上で重要なファクターになる。

Tax Matters (税金関係)

SRS Acquiom(M&A取引に関するサービスを提供する会社)の2015年のレポートによると、彼らのレビューしたM&A取引のうち、表明・保証条項の違反を主張するものの30%以上が税金に関する主張である。M&Aの譲渡契約において税金関連のコベナンツは、一般的に税金の表明・保証条項と緊密に結びついている。 税金関連の主張が多いため、税金関連のコベナンツは譲渡契約の中でも非常に重要なパートである。

M&A取引において、買い手は、取引のクローズ前に対象会社の税負担が増えないよう売り手と対象会社が行動することを望む。買い手は、こういった行為が守られるようなコベナンツを要求するのが一般的である。更に、クロージング前の課税期間に発生したものでクロージング後に提出する、もしくは、クロージングの前後で部分的にかかる課税期間に関する対象会社の確定申告について、財政的な負担や精勤を買い手と売り手とで分担する必要が出てくる。税金に関するコベナンツのセクションには、売り手の税金に関する表明・保証条項違反に対する補償条項が定められていることも多い。

これらの条項に関する細かい部分はケースバイケースで交渉されるのが一般的である。非常に複雑になる場合もあるし、米国の税法が絡んだ非常にテクニカルなものになる場合もある。取引が小規模でない限り、M&A取引に携わる米国の弁護士は、税専門の弁護士に税金の条項をレビューしてもらうのが一般的である。

まとめ

弁護士として米国型のM&A取引におけるコベナンツを交渉する際、一般的に、下記の三点を考慮することがとても重要だと考える:

  • 買い手もしくは売り手としての顧客のニーズ
  • 対象会社のビジネスへ与えるコベナンツの影響(売り手を代理する場合)、もしくはコベナンツが買い手に与えるプロテクション(買い手を代理する場合)
  • どのような条件まで要求できるか、どのような条件ならば認めても良いか、といった判断を適切に下すためのマーケットの知識

この投稿は、M&A契約における最も重要なコベナンツの一部を簡単に紹介したものである。実際の契約における条項は非常に細かく、弁護士は、その条項が買い手・売り手・対象会社にどのような影響をもたらすかにつき、慎重にレビューする必要がある。更に、この投稿では売り手と対象会社を制限するようなコベナンツに焦点をあてたが、買い手も上記のような一定のコベナンツに制限されうる。

 

モンローシェリダン・リードモンローシェリダン・リード
外国法事務弁護士(米国ニューヨーク州)
慶應義塾大学 法科大学院 特任講師
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