英文契約書作成のポイント:M&A取引におけるMAC条項(Material Adverse Change条項)の役割その2

英文契約書作成のポイント

初めに

前回の投稿(M&A取引におけるMAC条項(Material Adverse Change条項)の役割)では、M&A取引で使われるMACの定義に関する重要な交渉ポイントについて説明してきた。今回の投稿では、MAC条項に関するその他2つの重要ポイントについて説明していく。

まず最初のポイントとして、“carve-outs”(例外規定)について見ていきたい。この規定は、対象会社に重大な悪影響を及ぼすイベントについて、MACの定義に該当しない旨を明確にするものである。次のポイントは、MACに対する米国裁判所の判断についてである。訴訟中にMACについて問題になった場合、MACが実際に起こったと米国裁判所が認めるケースは驚くほど少ない。

では、それぞれのポイントについて、詳しく見ていこう。

“Carve-Outs”(例外規定) ­– 重大な悪影響を及ぼす変化がMACに当てはまらないケース

典型的なM&A契約では、MACの定義内で”carve-out”がいくつか定められている。例外とされたイベントについては、それが例え対象会社に悪影響を及ぼすものだとしても、MACには含まれない。直近のABA Deal Points Study(アメリカ法曹協会の出版するM&A取引に関する研究報告)によると、MACの定義中にcarve-outを含めるケースは、プライベートなM&A取引において実に90%以上を占めている。では、典型的なcarve-outとは何だろう。

例として、前回の投稿でも取り上げた買収契約を見てみよう。2017年にIntel CorporationがMobileye(自動運転テクノロジー会社)を買収した際の契約である。契約書の全文は、証券取引委員会 (SEC) のウェブサイトに載っている。

当該契約書のなかで、carve-outの文言はどのように書かれているのか。下記は、重要部分の一部抜粋である。全てのcarve-outに関する記述は、この三倍以上ある。

provided, that … no Effect relating to or arising from any of the following shall be taken into account in determining whether there has been, or would reasonably be expected to be, a Company Material Adverse Effect pursuant to subsection (i) of this definition: (A) general economic conditions (or changes in such conditions) in the United States… or conditions in the global economy in general; (B) changes in any financial, debt, credit, capital, banking or securities markets or conditions; (C) changes in interest, currency or exchange rates or in the price of any commodity, security or market index; (D) changes after the date of this Agreement in applicable Law … (E) changes in the Company’s and its Subsidiaries’ industries in general; … (F) any … failure of the Company to meet … any internal or public projections, forecasts, guidance, budgets, predictions or estimates of or relating to the Company…; (G) the continuation, occurrence, escalation, outbreak or worsening of any hostilities, war, police action, acts of terrorism, sabotage or military conflicts… (H) the execution and delivery of this Agreement… (I) the existence, occurrence or continuation of any force majeure events, including any earthquakes, floods, hurricanes, tropical storms… (L) any action expressly required to be taken pursuant to this Agreement, … provided, further, that with respect to subclauses (A), (B), (C), (D), (E), (G) and (I), Parent or Buyer must prove that such Effect disproportionately affects the Company and its Subsidiaries, taken as a whole, compared to other similarly situated companies…

この抜粋中にも、おさえておきたい条件がいくつか含まれている。 ABA Deal Points Studyによると、MAEの定義中にcarve-outを含む全取引のうち、3分の2以上の取引において、下記のcarve-outが含まれる。

  • 一般的な経済状況
  • 対象会社の業界全体における変化
  • 戦争やテロ
  • 買収契約及びそれに基づく行動
  • 法律や会計の変更
  • 自然災害
  • 金融市場の変化

一般的な経済状況

…general economic conditions (or changes in such conditions) in the United States… or conditions in the global economy in general…

上記抜粋中の(A)は、非常に良く登場するcarve-outである。事実、ABA Deal Points Studyによると、この規定が全carve-outの中で最も多く登場するcarve-outである。 この規定の背景にある基本的なロジックは、頻出する他のcarve-outと同様、リスクアロケーションの考え方である。そもそも、買い手と売り手が買収契約を交わしたら、買い手は対象会社を買うためのコミットメントをすることになるが、一度コミットメントをすれば、買い手が取引を中止できる状況は限られている。しかし、もし特定のリスクが発生した際に買い手が取引を中止できるならば、そのリスクは売り手へ転嫁される(アロケーションされる)ことになる。すなわち、買い手はこういったリスクについてプロテクションをもつことになるのだ。この買い手と売り手間のリスクアロケーションの考え方が、carve-outの根底にある。

典型的な例としては、対象会社に不正会計が見つかった場合などがある。このケースでは、例え買収契約に署名した後でも、一般的に買い手は取引を中止することができる。つまり、当該リスクについては、売り手にアロケーションされるということである。しかし、一般的な経済状況の悪化については、対象会社に限ったものではなく、売り手は当該リスクをコントロールすることは出来ない。このように、一般的、かつ売り手のコントロール外にあるリスクであるため、通常、買収契約に署名した後はリスクを買い手に転嫁することがフェアであるとされる。これは、他の一般的なcarve-out規定においても同様の、ベーシックな議論である。

金融市場の変化

…changes in any financial, debt, credit, capital, banking or securities markets or conditions…

これは、上記の例でいう(B)の規定である。(A)の規定と似ているが、別のリスクだ。証券・デットマーケットにおいて、対象会社に影響を及ぼすような特定の変化は生じたが、金融マーケット全体の悪化には至らない程度の変化であったために、(A)の規定ではカバーされない場合がある。このcarve-outは比較的頻繁に見られるが、こちらの規定も(A)と同様のロジックが根底にある。すなわち、金融マーケットのリスクは対象会社特有のものではなく、かつ売り手のコントロール外にあるため、当該リスクは買い手に負わせるのが妥当だろう、という考え方である。頻出する規定ではあるが、前述の” 一般的な経済状況”に関するcarve-outの方が、登場回数は多い。

上記の例における(C)の規定は、似たようなリスクについて定めている。すなわち、金利、為替レートなどの変化についてである。

対象会社の業界全体における変化

…changes in the Company’s and its Subsidiaries’ industries in general…

これは、上記の例でいう(E)の規定である。この規定は、対象会社の業界における変化をカバーしたものであり、業界全体に影響を与えるような変化が、例え対象会社に深刻なダメージを与えるようなものであっても、MACの定義からは除外する(つまり、買い手がリスクを負う)、というものである。こちらも頻出するcarve-outである。

戦争やテロ

…the continuation, occurrence, escalation, outbreak or worsening of any hostilities, war, police action, acts of terrorism, sabotage or military conflicts…

これは、上記の例でいう(G)の規定である。戦争やテロは、対象会社がコントロール出来るものではないため、MACの定義から除かれることが非常に多い。

買収契約及びそれに基づく行動

…any action expressly required to be taken pursuant to this Agreement…

これは、上記の例でいう(H)の規定である。買収契約と、対象会社が従うべき行動については、買い手と売り手が相互に合意したものである。そして、買収契約に基づいて対象会社がとるべき行動については、買い手からリクエストすることが一般的であることから、こうした要因によって起こるMACのリスクについては、買い手が負うべきだろう。こちらも一般的な規定であり、多くの買い手と売り手が前述の理由から合意しているようだ。なお、構成的にこのcarve-outを2つの規定に分ける場合もある。一つは、M&A契約上で要求される対象会社の行動で、もう一つは、M&A契約締結の公表自体がもたらす影響である。

法律や会計の変更

…changes after the date of this Agreement in applicable Law…

これは、上記の例でいう(D)の規定である。法律や一般的な会計ルールの変更は、対象会社のコントロールが及ばないものであり、多くの取引においてMACの定義から除外される。この規定は、その時々で法律と会計を一括して一つのcarve-outとされる場合もあり(Mobileyeのケース等)、一方で二つのcarve-out(法律に関する規定と、会計に関する規定)に分けて記載される場合もある。

その他のCarve-out

自然災害

…the existence, occurrence or continuation of any force majeure events, including any earthquakes, floods, hurricanes, tropical storms…

Mobileyeの買収契約では、(I)の規定が自然災害についてカバーしている。ABA Deal Points studyによると、このcarve-outが見られるのは、全てのプライベートディールの半数以下に留まる。しかし当然、買い手がこの規定を入れることに合意する場合もある。日本では地震が頻発することもあり、日本の売り手は契約に当該carve-outを含めるよう交渉することを考慮すべきだろう。

業績見通しの未達

…any … failure of the Company to meet … any internal or public projections, forecasts, guidance, budgets, predictions or estimates of or relating to the Company…

これは、上記Mobileyeの例でいう(F)の規定である。合併契約の中で特に記載されていない場合は、業績見通しの未達はMAEになりうる。米国のM&A関連訴訟で最も重要な管轄である、デラウェア州裁判所の判例では、大半のケースにおいて、四半期ごとの業績見通しの未達はMAEとして考慮するには不十分だとの判断を示しているが、業績見通しの取り扱いについて、買い手・売り手ともに事前に明確にしておくと良いだろう。

Carve-outの例外

上記のcarve-outは非常に良く見られるが、これらのcarve-out規定にも時に例外が存在する。すなわち、同業他社に比べて対象会社に” 不均衡な影響”(disproportionate effect)がある場合、これらのcarve-outイベントがMACに該当する場合がある。Mobileyeの買収契約にも、このcarve-outに対する例外の一種が含まれている。考え方としては、一般的なリスクは買い手が負うが、同業他社に比べて対象会社に特にネガティブな影響を及ぼすリスクについては売り手が負う、というものである。具体的な内容はディールごとに交渉されるが、これらの例外は一般的に次のようなcarve-outに適用される:(1) 一般的な経済状況、(2) 対象会社の業界全体における変化、(3) 金融市場の変化、(4) 戦争やテロ。また、法律の変更や自然災害についても適用される場合がある。

訴訟中にMACを証明することは非常に難しい

大半の米国法M&A契約において、MACの定義は重要な交渉ポイントの一つである。しかし驚くことに、米国裁判所、特にデラウェア州裁判所ではMACが発生したと認めることは非常に少ない。デラウェア州では、多くの米国企業が設立されているため、特にM&A関連の判決については重要な管轄となっている。

この問題について触れたデラウェア州における二つの重要なケースは、MACを主張して取引の中止を望む買い手にとってはバッドニュースとなる。デラウェア州裁判所は、MACの発生は”月単位ではなく年単位で”見るべきだと述べ、2008年には、合併契約のなかでMACが発生したと認められるものは一つもなかった、との判断を下している。対象会社に対する著しくネガティブなイベントが”何年も”影響を及ぼし続けていることを示さなければならないとすると、買い手がMAC発生を証明することがいかに難しいか容易に想像できるだろう。

しかし、MAC訴訟についての現実を考慮に入れるとしても、MACの定義を注意深く交渉することは重要である。なぜなら、MACの発生を理由に買い手が取引を中止できるとする条件は、案件のクロージング前の交渉力にインパクトを与えるからだ。もし買い手が、MACの発生を強く主張することが出来るならば、クロージング前により良い条件を交渉することが出来る可能性もあるし、もしくは単に取引を中止する可能性もある。その場合、売り手は、例えば買い手の要求を受けるか、又は訴訟に持ち込むか、といった対応についての選択肢を検討することになる。MACの定義の詳細は、両者にとって非常に重要なものとなりうるのだ。

結論

前回と今回の投稿では、米国型M&A契約におけるMACの定義について、いくつかの重要なポイントを説明してきた。もちろん、これはMACに関する問題についての説明の一部にすぎないし、米国型M&A契約では他にも重要な交渉ポイントがたくさんある。MACの定義は複雑であり、米国法に詳しい者による分析が必要となる。そして、買い手と売り手の双方にとって、取引の結果に大きなインパクトを与えうるものである。

モンローシェリダン・リードは、ニューヨークおよび東京で国際M&A案件に携わった経験をもち、クロスボーダーM&A取引に関して日本の上場・非上場企業へアドバイスを提供してきました。M&Aに関して、モンローシェリダン外国法事務弁護士事務所へご相談がある方は、当事務所のお問い合わせページからご連絡下さい。当事務所のM&Aに関する実績につき詳細をご覧になりたい方は、こちらをご覧下さい

 

モンローシェリダン・リードモンローシェリダン・リード
外国法事務弁護士(米国ニューヨーク州)
慶應義塾大学 法科大学院 特任講師
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