英文契約書作成のポイント:M&A取引におけるMAC条項(Material Adverse Change条項)の役割その1

英文契約書作成のポイント

初めに

M&A案件に関わったことのある弁護士であれば、MAC条項 (“Material Adverse Change”、”Material Adverse Effect”やMAEとも呼ばれる) が買収契約において重要な役割を果たすことを知っているだろう。これは、取引の構成が買収案件であれ、合併案件や事業譲渡案件であれ同じことである。

MAC条項の使い方

典型的な米国型の合併契約 (もしくは株式譲渡契約や事業譲渡契約) では、MAC条項の使い方は主に4つある:

  1. 対象会社が直近の監査済み財務諸表を出した日以降は、MACが発生しない旨を表明保証条項として組み込む。
  2. 合併契約の締結日以降は、MACが発生しない旨をクロージング条件条項として組み込む。
  3. 対象会社にMACが発生したときのみ表明保証違反とする条件(“MAC qualifier”)を、特定の表明保証条項に入れ込む。
  4. 売り手は、契約締結日からクロージングまでの間にMACが発生した場合、買い手に知らせなければならないという条項を組み込む。

これらを適用することは、合併契約に重要なインパクトを与えうることは想像に難くないだろう。特に「MAC」の定義については、買い手が取引から撤退する権利を持つか否かを定める可能性があるため、重要である。

この投稿では、米国型合併契約におけるMACの定義についてキーとなる文言を紹介すると共に、定義のなかで最も頻繁に交渉されるいくつかの条件について説明していきたい。また、次回以降の投稿では、合併契約や株式譲渡・事業譲渡契約の交渉にあたり弁護士としておさえておきたいMACの交渉ポイントについて追加で説明していきたい。

米国型MAC条項の定義はどのようになっているのか?

米国の上場企業は、M&A契約を含む重要な契約等 (material agreements) については公表する必要がある。従って、これらを見れば実際の買収で使われたMACの定義を見ることが出来る。例として、2017年3月13日にIntel CorporationがMobileye (運転システムテクノロジーカンパニー) を153億ドルで買収することに合意した際の、合併契約書の全文が証券取引委員会 (SEC) のウェブサイトに載っている。

では、その契約書で定義されているMAC条項について見て行こう。定義の全文は長すぎるので、ここでは最もベーシックな部分について見ていきたい。興味のある方はこちらに定義全文が載っているので参照してほしい

Company Material Adverse Effect” means any fact, change, event, development, occurrence or effect (each, an “Effect”) that (i) materially adversely affects the business, assets, results of operations or financial condition of [Mobileye] and its Subsidiaries, taken as a whole or (ii) prevents or materially impairs the ability of [Mobileye] to consummate the Transactions; provided, that… no Effect relating to or arising from any of the following shall be taken into account in determining whether there has been, or would reasonably be expected to be, a Company Material Adverse Effect pursuant to subsection (i) of this definition: (A) general economic conditions (or changes in such conditions) in the United States, The Netherlands, Israel or any other country or region in the world in which [Mobileye] or its Subsidiaries conduct business, or conditions in the global economy in general…

この定義で最も重要なパートは、”any… development… that… materially adversely affects the business, assets, results of operations or financial condition of the Company…”(対象会社のビジネス、資産、運営、財務状況に重大な悪影響を与えること)という部分である。また、対象会社に悪影響が与えられてもトリガーがかからない場合もあり、これらは”例外規定” (英語では”carve-outs”)と呼ばれる。

米国でマーケットプラクティスになっているMAC条項が何かを知るためには?

二年ごとにアメリカ法曹協会 (American Bar Association) は、”Private Target M&A Deal Points Study”を出版し、M&A取引における数々の取引条件の統計情報を提供している。この調査には、その他多くの条項に加えて、様々なMAC条項についての詳細な情報も含まれている。

よく交渉される条件は?

MACの定義に含まれる多くの条項が、取引ごとに交渉される。その中でも、頻繁に交渉される重要な条項のいくつかは下記である:

  • “Prospects“ (将来予測)が定義に含まれるか否か
  • 将来を考慮に入れた言葉 (forward-looking language) が入っているか
  • 契約締結時に発生した変更/変化について知っていた場合でもMACが適用されるか
  • MACの定義における“carve-outs”(例外規定)の内容や範囲

この投稿では、最初の三点について説明し、例外規定については次回の投稿で触れたいと思う。

交渉ポイント#1: “Prospects” (将来予測)を定義に含むか否か

上記の例を用いると、MACの定義に“prospects” (将来予測など)”を含めた場合、下記のような条項になる:

Company Material Adverse Effect” means any fact, change, event, development, occurrence or effect (each, an “Effect”) that (i) materially adversely affects the business, assets, results of operations, prospects or financial condition of [Mobileye] and its Subsidiaries, taken as a whole…

(和訳)

対象会社に重大な悪影響を及ぼす事由”とは、(i) [Mobileye]およびその子会社等のビジネス、資産、業績、将来予測または財務状況に重大な悪影響を及ぼすあらゆる事由、変更、イベント、進展、出来事または現象…

直近のABA Deal Points Studyによると、この”prospects”は10回に約1回の取引でしかMACの定義に含まれないとのことである。それはなぜか?

売り手の観点から考えてみよう。概して、最後の監査済み財務諸表以降にMACが発生してないことを表明するのは売り手である。更には、もし契約締結時からクロージングまでの間にMACが発生した場合、買い手が取引から撤退できる可能性は高い。従って、売り手はMACの定義を出来る限り狭くしようとする。

しかし、ここで”Prospects”という言葉は広く曖昧である。“Any event that materially adversely affects the prospects of the Target company” (対象会社の将来予測に重大な悪影響を及ぼすあらゆるイベント)というのは、様々な事象を含みうる。どれくらい広義なのか?こちらの例で考えてみよう:
もし、Mobileyeが新しいタイプの自動運転車技術を2年後に発表する予定で開発していたが、Intelが同社買収をクローズする直前にGoogleが同じタイプの技術を翌日にローンチすると発表してしまったらどうなるのか?2年後というのはかなり先のことであり、これがMobileyeの”ビジネスに重大な悪影響を及ぼす”とは言い難いが、これがMobileyeの”将来予測に重大な悪影響を及ぼす”かどうかについては大いに議論されうる。

恐らく、”prospects”をMACの定義に入れることについて売り手が最も主張することは、それが非常に曖昧であり、合併契約で買い手と売り手が何を実際に合意したのかにつき混乱を招きうる点だろう。いずれにしろ、混乱は両者にとって良いものではない。また、もし買い手が将来の進展について特別な懸念をもっている場合、これらの特別な懸念事項につき明らかに議論され交渉されたのかどうかについても、売り手は主張することが出来る。もし両者が合意すれば、”prospects”という曖昧な言葉ではなく、これらの懸念事項について合併契約の中に明確な条件を入れることもできる。更に、ABA Deal Points Studyは、”prospects”を入れることはかなりまれであり、買い手は”prospects”を定義に含めないことにつき一般的には問題にしないことを示している。そして、下記に説明するように、将来のリスクについては他にも記載の仕方がある。

交渉ポイント#2: MACの定義に、その他の将来を考慮に入れた言葉 (“forward-looking language”) が入っているか

もしMACの定義に”prospects”が含まれていない場合でも、将来のリスクについて言及するforward-looking languageを含める方法はいくつもある。その一例が下記だ:

Company Material Adverse Effect” means any fact, change, event, development, occurrence or effect (each, an “Effect”) that has, or would reasonably be expected to have, (i) a material adverse effect on the business, assets, results of operations or financial condition of [Mobileye] and its Subsidiaries, taken as a whole…

“対象会社に重大な悪影響を及ぼす事由”とは、(i) [Mobileye]およびその子会社等のビジネス、資産、業績または財務状況に重大な悪影響を及ぼす、または及ぼすと合理的に予測できる、あらゆる事由、変更、イベント、進展、出来事または現象…

もしこのような言葉がMACの定義に直接含まれていない場合、代わりに表明保証条項のなかで使われている可能性がある。

ほとんどの合併契約書には、こういったforward-looking languageが様々なバリエーションで含まれていることが非常に多い。Forward-looking languageを要求する買い手が主張するのは、対象会社に重大な悪影響を及ぼしうるいかなる既存のイベントもMACの定義でカバーすべきだという点だろう。イベントがクロージングの前に起こる限りは、そのイベントの影響がクロージングの前に及ぶか後に及ぶかに関係なく、売り手がリスクを負うべきだという議論である。

交渉ポイント#3: あらかじめ知っていたイベントにもMACが適用されるか

時には、知っているイベントと知らないイベントの両方を含めるために買い手がMAC条項を定義したいという場合がある。下記がその場合の例である:

Company Material Adverse Effect” means any fact, change, event, development, occurrence or effect (each, an “Effect”), whether known or unknown as of the date of this Agreement, that has (i) materially adversely affects the business, assets, results of operations or financial condition of [Mobileye] and its Subsidiaries, taken as a whole…

対象会社に重大な悪影響を及ぼす事由”とは、本契約時点で知っていたか知らなかったかに関わらず、(i) [Mobileye]およびその子会社等のビジネス、資産、業績または財務状況に重大な悪影響を及ぼすあらゆる事由、変更、イベント、進展、出来事または現象…

この主張に対抗するものとして、売り手は、具体的に知っている事柄については契約の中に明示することを求めることが出来る。もし買い手が重要な事項につきすでに知っているのであれば、大抵の場合は契約の中にその事項を明示することが出来るはずである。一方で、買い手は、契約時点で何を”知っていた”かについての議論にもつれ込みたくないと議論する可能性もある。個人的には、この点については一般的に、売り手の方がより説得力のある根拠を持っていると考える。

追加の交渉ポイント

米国型のM&A取引において頻繁に交渉されるMACの定義には、他にも様々な重要ポイントがある。その他の重要事項としては、定義の“carve-outs“ (例外規定)は何かという点もある。言い換えれば、対象会社に重大な悪影響を及ぼすがMACには当てはまらないイベントは何か、ということである。

他にMACの定義について交渉する際に考慮するべき重要な事項は、買い手と売り手が最終的に裁判になった際、アメリカの裁判官はMACの発生を認めないことが多い。これはつまり、対象会社にMACが発生したからといって買い手が訴訟でクレームを通すことは驚くほど難しい、ということを意味している。この点については、“carve-outs”と共に次の投稿でより詳しく説明していきたい。

 

モンローシェリダン・リードモンローシェリダン・リード
外国法事務弁護士(米国ニューヨーク州)
慶應義塾大学 法科大学院 特任講師
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