米国法・英文契約書作成のポイント: 陪審裁判の放棄条件

英文契約書作成のポイント

初めに

米国法の契約に携わったことのある法務の専門家であれば、恐らく下記の文章には馴染みがあるだろう。それは全て大文字で記載されていることが多い:

EACH PARTY IRREVOCABLY AND UNCONDITIONALLY WAIVES, TO THE FULLEST EXTENT PERMITTED BY APPLICABLE LAW, ANY RIGHT IT MAY HAVE TO A TRIAL BY JURY IN ANY LEGAL ACTION, PROCEEDING, CAUSE OF ACTION, OR COUNTERCLAIM ARISING OUT OF OR RELATING TO THIS AGREEMENT…

(和訳)

各当事者は、法が認める最大限の範囲まで、本契約より生ずる又は本契約に関連する、あらゆる法的措置、訴訟手続き、訴訟原因、反訴における、陪審裁判を受けるあらゆる権利を取り消し不能かつ無条件に放棄する・・・

あなたが英語の契約書を読むことに慣れていれば、これが、当事者が陪審裁判を受ける権利を放棄する条項だということがわかるだろう。

この条項は、様々な契約の中で見られるが、特に会社間の商業契約でよく見られる。しかし、なぜ二つの会社は、ビジネス契約に関連する陪審裁判の権利を持つのだろう?そしてなぜアメリカの弁護士は、この変わった権利を当事者に放棄させるために、上記の条項を入れ込むことが多いのだろう。しかも、全て大文字で。

民事事件における陪審裁判を受ける権利

事実、米国憲法は、20ドル以上の係争となる全ての民事事件に対して、当事者が陪審裁判を要求できる権利を保証している。この保証は連邦裁判所における事件にのみ適用されるものであるが、たいていの州は、州裁判所における裁判で陪審裁判を受ける権利を与えている。例えば、ニューヨーク州では一般的に、民事裁判の当事者に対し、当事者が権利放棄をしない限り、陪審裁判を要求する権利を認めている。

民事事件での陪審員の役割は事実上の争点を決めることであり、一方、裁判官は法律上の争点を決める。例えば、契約違反のケースでは、陪審員は被害者が受けた損害額を決める責任を負うが、決定を下す前に両当事者の言い分を聞いてから判断する。

ではなぜ会社は陪審裁判の権利を放棄するのか?

もし会社が契約に関する係争で陪審裁判を受ける権利を持つとするならば、なぜ契約の中で権利を放棄するのだろうか?なぜ実際の係争が起こったときまで待って、陪審裁判を受けるかどうかをその時点で決めないのだろうか?

当事者がこの権利を放棄することを選択する場合、その理由はたいてい、当事者がほぼ全ての状況において陪審裁判を受けない方が良いだろうと信じているからだ。陪審裁判を避ける一つの理由は、裁判官のみによる裁判と比べて時間が長くかつ高くなるからだ。その他の理由は、特に懲罰的損害賠償の裁定額に関して、陪審員は予測不可能と思われているからである。

予測不可能な陪審員

なぜ陪審員は予測不可能と思われているのか?最も分かりやすい直近の例は、Appleに対する訴訟である。

ここ数年、VirnetXという会社はAppleと訴訟中であり、Appleのフェイスタイム技術はVirnetXがもつ特許を侵害していると主張していた。そして、裁判所が適切な損害を決定しなければならなかった際、AppleはVirnetXの裁定額は4,400万ドル以下であると主張していた。

しかし2016年2月、陪審員は、AppleはVirnetXに6億2,600万ドルを支払わねばならないとした。株式市場は明らかにこの規模での裁定額を予想しておらず、陪審員による裁定額が発表された日、VirnetXの株価は84%も上昇した。このような予測不可能性があるため、多くの弁護士や企業は全ての陪審裁判を避けるのだ。

陪審裁判を放棄するためにはどのような文言が使われるのか?

第2巡回区連邦控訴裁判所により解釈されている連邦法の下では、執行力をもつためには、陪審裁判の放棄は、(1)知りながらにして、(2)意図的に、(3)自発的に、することが必要である。放棄の条項がしばしば全て大文字で書かれているのはこのためだ。契約を作成する弁護士は、放棄条件を出来る限り顕著に記すことで、当事者が知りながらにして意図的に陪審裁判を受ける権利を放棄することを明らかにしたいのである。

 

モンローシェリダン・リードモンローシェリダン・リード
外国法事務弁護士(米国ニューヨーク州)
慶應義塾大学 法科大学院 特任講師
info@monroe-legal.com
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