アメリカでのシードファンディングと転換社債

アメリカでのシードファンディングと転換社債

アメリカでのシードファンディングと転換社債

前二回の投稿では、米国証券法の概要と、米国でのプライベートファンディングで最も一般的に使われる登録免除規定であるレギュレーションDについて触れた。

今回の投稿では、転換社債(convertible note)について説明する。転換社債は、米国でのベンチャー企業のシード資金調達に使われる最もポピュラーな手段であり、そのオファリングのほとんどは証券法のレギュレーションDとセクション4(2)に基づいて行われる。

米国でのシードラウンドの規模

米国で行われるシードラウンドの典型的な規模は、数万ドルから150万ドル程度であるが、その規模は徐々に大きくなってきている。ベンチャーキャピタル市場の情報を分析するCB Insightでは、“巨額の”シードラウンドとは150万ドル以上の規模のものであると考えているが、実際に巨額のシード資金調達をした会社の例は少ない。その中で目を引く二つの事例といえば、2014年にDigital Assetが5,000万ドル、2013年にClinkleが3,000万ドルのシード資金調達を行ったことだろう。

シード資金調達には多くの投資家が関わりうる。その多くの投資家を調整するために、複数のクロージングを設定したり、ある期間に渡ってクロージングを”ロール”することが多い。”クロージング”とは、投資家が投資代金を払い、引き換えに債券や株を受け取る日のことである。

シード投資の手段

アメリカでのシード投資は下記のいずれかを用いることが多い:

  • 転換社債
  • 転換優先株
  • 普通株
  • SAFEs (Simple Agreements for Future Equity:将来の株のためのシンプルな契約)

これらの手段はそれぞれ異なる機能をもち、創業者や投資家にとって各々長所や短所がある。

転換社債

転換社債とは何か?

転換社債とは、アメリカでのシード投資に用いられるスタンダードな調達手段である。

債券の一つであり、他の社債と同様に、元本、償還日、利率が設定されている。償還日まで社債が転換されなかった場合、償還日に元本が投資家へ返される。典型的なシード段階の転換社債の利率は固定である。

転換社債は債券なので、株主に比べて発行会社の資産に対し優先請求権を有する。すなわち、もし会社が破産/支払い不能に陥った場合、債券主の方が株主よりも先に元本および利子の支払い請求ができる。

とは言え、多くの投資家や創業者は、シード段階の転換社債を”本当の”債券とは考えていない。これは、投資家の目的が、償還日に元本と利息の支払いをしてもらうことではなく、会社がシリーズAの調達を行う際にその債券を株に転換することにあるからだ。従って転換社債は、投資時にはまだ明確な条件の決まっていない株、として扱われる。

転換トリガー

典型的な転換社債にはいくつかの転換トリガー(conversion trigger)が条件として含まれている。下記は、一般的な転換トリガーイベントである:

  • 株での調達:会社が株での調達をした場合は、典型的な転換トリガーとなりうる。転換価格は、ディスカウントまたは、評価額の条件(valuation cap)、もしくはその双方(これらの用語説明は下記)によって決定される。債券保有者は、株の投資家と同じシリーズ(種類)の株を受け取る。
  • 会社の売却または譲渡:会社が売却される、他の会社に合併される、所有権が第三者に譲渡されることがあった場合、債券保有者は、(1) 元本と経過利息を受け取る、または(2) 株に転換する、のどちらかを選択する。もし債券保有者が(2)転換することを選択した場合、その債券は一般的に、買収価格又は転換社債契約に明記された上限価格で普通株に転換される。
  • 償還日での転換:債券の償還日まで上記2つのトリガーイベントが起こらなかった場合、債券保有者は、債券を株に転換する、もしくは債券のままで保有し続ける、ことを選択することができる。株に転換した場合は、転換社債契約に明記された予め決められた価格で株に転換される。一方、債券のままで保有することを選択した場合(ここが一般的な転換社債とシード段階の転換社債と異なる部分ではあるが)、債券保有者は継続的に利息を受け取り、後に会社が株での調達を行う場合または会社が売却された場合に、株へ転換しうる。もしくは、通常通り、元本と利息の償還を求めることもできる。

転換価格

一般的に、転換社債は後の投資家が支払う購入価格に基づいた価格で転換されるが、その転換価格には、ディスカウント、評価額の上限、もしくはその双方の条件が含まれる。これは、転換社債の保有者は会社の初期段階で投資するリスクを負った分のプレミアムを受け取るに値する、という考えに基づいている。

  • ディスカウントレート:債券保有者が、後段階の株投資家が支払う価格よりも低いディスカウント価格(後の投資家よりも有利な価格)で株を取得することができるようにしたもの。例えば、ディスカウントレートが20%に設定された場合、シリーズAの投資家がシリーズA優先株を一株10ドルで購入するならば、転換社債は8ドルでシリーズA優先株に転換することができる。
  • 評価額の条件:債券保有者は、後に会社の評価額が高くなった場合でも、株に転換する際には会社の評価額に上限がつけられる。例えば、転換社債に付する評価額の上限を一株10ドルとした場合、後々会社の評価額が上昇しシリーズAの投資家が一株15ドルを支払ったとしても、転換社債の保有者は一株10ドルで転換できる(ディスカウントレートについてはここでは無いものとする)。なお、実際の評価額の上限については、一株単位ではなく増資前評価額として記載されることが多い。

もしディスカウントレートと評価額の上限の双方が付されている場合、債券は低い方の価格で転換される。

各取引により条件は異なる

前述した条件は、シード段階での一般的な転換社債の重要な条件をまとめたものであるが、実際のシード資金調達では、この条件が変更されたり、ここでは触れていない条件が付されることもある。転換社債の法的書類は、条件にもよるが、全部で約5-20ページになる。

転換社債はシード資金調達の最もポピュラーな手段であるが、優先株やSAFEs、普通株も同じく用いられる。これらの手段はある状況下では転換社債よりも有用な所がある。

今後の投稿では、ベンチャー投資の手段として優先株について説明していく。SAFEsについて更に詳しく知りたい方はこちらのリンクを参照してほしい。

 

モンローシェリダン・リードモンローシェリダン・リード
外国法事務弁護士(米国ニューヨーク州)
慶應義塾大学 法科大学院 特任講師
info@monroe-legal.com
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